ヴェルサイユファーム 岩崎美由紀代表インタビュー(前編)
牧場インタビュー ヴェルサイユファーム(前編)
競馬を支えるホースマンたち、このコーナーではサラブレッドの生産牧場に生産にまつわる話を深堀りしていきます。記念すべき第一回目として先日の日本ダービーに出走したビーアストニッシドの生産牧場であります、ヴェルサイユファーム岩崎代表にUMAUMA代表の澤がインタビューさせていただきました!
岩崎美由紀代表のプロフィール
出身地:兵庫県
経歴:女優・元宝塚歌劇団花組トップ娘役
主な生産馬:ビーアストニッシド、ミスパンテール、ライジングリーズン
出身地:兵庫県
経歴:女優・元宝塚歌劇団花組トップ娘役
主な生産馬:ビーアストニッシド、ミスパンテール、ライジングリーズン
■前編インタビュー内容■
● ヴェルサイユファーム誕生秘話
・ 旧三城牧場代表小川との出会いと別れ
・ 素人がゆえの苦悩と葛藤
・ お産の苦労と馬への愛
● 競走馬づくりに対するこだわり
・ 馬と通じ合う愛情の対話
・ 生き物がゆえの難しさ、馬の死
・ ヴェルサイユファームが目指すもの
・ 牧場として感じる競馬の魅力
ヴェルサイユファーム誕生秘話
澤 本日は岩崎代表に牧場、生産に関する話をお伺いさせていただきます。よろしくお願いします。
岩崎 はい、そんな面白いことは言えませんがよろしくお願いします。(笑)
旧三城牧場代表小川との出会いと別れ
澤 まず早速なんですが、岩崎代表が牧場を始められたきっかけというのは何だったのでしょうか?岩崎 元々馬が大好きで、乗馬も好きでした。その影響で息子には乗馬を7,8年ほど習わせました(笑)夫の小川(旧三城牧場代表)と出会った時には競走馬のことは知りませんでした。夫が亡くなる際、出来るならこの牧場を継いでほしいと、無理ならいいんだと言われまして。ただ毎月ここに来て、馬に人参をあげたり、従業員たちの働いている姿を見た時にここを守りたいと強く想いました。ここの牧場は場所も凄く良いんですよ。ただ正直な話、当時、夫が亡くなった際は牧場の経営状況というのは非常に厳しく、銀行の借り入れなどもあり、億以上の多額の借金がありまして、、、買収の話も来ていました。ただ誰にもゆずる気はありませんでした。
澤 なぜそんな状況でもそういった強い想いがあったんでしょうか?
岩崎 やっぱり、私は馬が大好きなんですよね。続く限りはこの馬が好きな気持ちだけでやっていこうと。全財産かけてもこの牧場を続けたいと心の底から思っていましたから。今思うと、競馬について何も知らなかったから逆にチャレンジできたんだと思います(笑)ただ、牧場をやってみて、現実は甘くなかったです、、、
素人がゆえの苦悩と葛藤
澤 そうなんですね、どういった苦労があったんでしょうか?岩崎 私はいくら馬が好きとはいえ、競走馬の生産や育成については全くのド素人です。ですが、牧場の従業員たちはプロですから、私に対する不安はとても大きかったと思います。なので、多くの従業員が辞めていきました。その時は本当につらかったです。ただそんな時に就職が決まったはずの息子が牧場に帰ってきたのです。ずっと彼は乗馬を習っていたこともあるので、馬の気持ちがよくわかるんです。彼には今もそうですが、本当に助けられています。
お産の苦労と馬への愛
澤 そうだったんですね、実際牧場の仕事をされていて感じるものはあるのでしょうか?岩崎 牧場を引き継いで、はじめは小川が残した生産馬のミスパンテール、ライジングリーズンが幸運にも桜花賞に出走しまして、お恥ずかしながら桜花賞に出走する凄さを私はわからず、取材を受ける中で初めて知ったんです。(笑)また生産と言えば、お産なのですが、最初の1,2年はとても順調に終えることができ、正直お産は楽だと思いました。ただ3年目から難産、死産を経験して初めてお産は馬も人も命がけだと気づきました。動物の出産は自然分娩が通例だと思いますが、競走馬の生産には人の手が必要なんです。お産の時期は従業員も夜通し働くわけにはいかないので私が交代で大体朝の4時まではモニターでの監視を行っていたりします。これが3~4カ月ほど続きます。生まれたら、もちろんホッとするのですが、仔馬の時期は免疫力が弱かったりするので、病気の仔馬にはずっとそばにいて、ミルクをあげたり、お世話をする必要があります。なかには育児放棄をする親もいたりするので、その場合はおっぱいを人が飲ませたりするのも本当に命がけなんです。ただそうやって馬が隣にいることはなかなかないので、本当に馬のことが愛おしくて、絶対にこの子を助けたい、馬への気持ちが一段と高まるんです。初めは馬が好きという気持ちで始めましたが、今は「愛」に変わったんだと思います。
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競走馬づくりに対するこだわり
澤 もう代表の今の表情から馬を愛しているという気持ちがひしひしと伝わってきました!それでは、牧場として馬への接し方について何か取り組まれていることはありますでしょうか?
岩崎 はい、まず当歳、1歳馬に関しては毎朝の検温、飼葉などの飼料に関しても惜しみなく投資を行っています。
馬と通じ合う愛情の対話
澤 やはりそういった細かな管理が重要なんですね。スタッフの皆さんはどういった接し方をされているのでしょうか?岩崎 スタッフの中にレイチェルさんというイギリス人女性がいるのですが、彼女の馬への接し方はどちらかというと乗馬のスタイルから来ていまして、とにかく愛情を込めて常に話かけをするんです。なのでウチの従業員はみんなそういった常に馬に対して話かけていますね。集牧する時にいたずらされたりもありますし、言葉は交わせないかもしれないんですが、必ず馬に通じているものがあると思うんです。
生き物がゆえの難しさ、馬の死
澤 なるほど、それは素晴らしいですね。まさしく人と馬のコミュニケーションの理想形かと。ただその中でもなかなか難しいこともあると思います。岩崎 そうですね、、、先ほど話したように人間と同じように全ての親が子供を愛する、育てようとするとは限りません。なかには虐待する子もいます。子供が親に噛まれて、血まみれになることだってあるんです。そういったことを防ぐにはどうするのか、スタッフみんなで考えます。ただ1頭1頭が個性的でそれぞれ違いますから、これだという正解はないんですよね。ずっと続けている限り勉強だと思ってます。とはいってもどうしようもないこともあります。生産馬のゴライアス、ライジングリーズンの母親のジョウノファミリーがいたんですが、この親子ともども亡くなってしまって、、、子供だけでも助かりませんかと獣医さんにお願いしたんですが、助からず。私は先代の小川が亡くなった際以外はどれだけ嫌なこと、苦しいことがあっても泣いたりしなかったんですが、やっぱり馬が死んだときというのは、、、本当に耐えられないです。悲しみが大きすぎて立ち直れません。それでも他の子たちがいるのでそんなことは言ってられませんから。とにかく馬中心に何事も考える、億単位の借金から始まっているわけですから、頑張れることは頑張る。自分からは絶対ギブアップしません。馬を信じ、人を信じ。毎日一生懸命取り組んでいます。
ヴェルサイユファームが目指すもの
澤 いかに競走馬の生産が大変なのか、身に染みて理解することができました。それでも代表を支えるものというか、ヴェルサイユファームが目指すものがあるのでしょうか?岩崎 はい、やっぱりそういった死んでしまった親子やウチの生産馬たちが夢にも出てくるんです。生産馬というのは繁殖牝馬などで戻ってこない限り、売った後、競走馬になった後の最期は全てわかるものではないのが現実です。私には自分の生産馬は最期まで、余生を看取りたいという強い気持ちがあります。なので今は生産牧場でありますが、養老牧場というか引退馬の牧場のような余生をサポートできる仕組みづくりをしたいと思っています。そのために化粧品を作ったり色々資金を作ったり、自分に出来ることは何でもやっています。生産で得た利益もそういったことに使っていこうと思います。
牧場として感じる競馬の魅力
澤 素晴らしい目標だと思います。では今代表を支えているであろう牧場をやっている中でのやりがいというか充実感というのは何なのでしょうか?岩崎 そうですね、自分のところの生産馬を買ってくれた馬主さん、預かってくれた調教師さん、厩務員さん。関わるみんなが喜んでくれるような馬が出てきてくれると本当に嬉しいです。その顔を見るのがやりがいですよね。私は元々宝塚にいた時も感じていましたが、舞台で受ける観客の皆さんの拍手を受けて、自分が頑張ろうという気持ちによくなりました。もっとお客さんに喜んでもらえる芝居を表現をしようと、その刺激が生きがいでしたね。だからこそ今は馬でそれが表現できたらと思います。初めて競馬場に行った時のG1の熱気、ワクワク感を肌で浴びて、宝塚に通じるものを強く感じました。この熱狂を馬たちが与えているんだと。
澤 エンターテイメントの最前線でおられた代表だからこそ、強く感じたものがあったんですね。そしてそういった馬こそビーアストニッシドでしょうか?
岩崎 そうです、ビー君ですね!(笑)
澤 ビー君と呼ばれていたんですね(笑)それではビーアストニッシドにまつわるお話しを伺えますでしょうか?
岩崎 はい、何でも聞いてください(笑)(続編に続く)
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